希望と挫折 されど新たな未来を見つめて − 宮崎県

「ハネムーン」(Honeymoon) ご存知のとおり新婚旅行のことです。
私も30年程前に体験させて頂きました。有り難いことに未だ愛想を尽かされることもなく何とか “夫婦” を営ませて頂いています(^ ^;)

Honeymoon 直訳で言うなら “蜜月” を表し、文字どおり人生の中でも最も活気有り新しく組み上がった “家族” をこれから盛り立ててゆこうという、まさに新風と躍動の門出でもあるのですが、さて その後の人生はというと、それこそ千差万別・紆余曲折といったところで、安定して家庭を護持することさえ中々に苦労するものです。

 

“日本人最初の新婚旅行” で知られる “坂本龍馬” 、波瀾万丈の人生を生き急ぎながらも歴史に大きな足跡を残した龍馬も やはり人の子、31年という生涯で妻のお龍さんと過ごした3ヶ月余りの蜜月は、彼の数少ない安らぎの時であると同時に 翌年には凶刃に斃れてしまう限られた人生の中で光り輝く想い出となったに違いありません。

龍馬とお龍さんが逗留・観光したと伝わる南九州、鹿児島から宮崎にかけての一帯は、時代が下って昭和の頃には国内における新婚旅行のメッカとも言われ、東日本の伊豆・熱海と人気を二分して新婚さんで賑わう観光地でもありました。

されど、時とともに 海外旅行が身近になるとともにハワイやグァム、そしてアメリカ、ヨーロッパへの新婚旅行も増え、また人生や生活に対する価値観の多様化など婚姻率の低下もあって、国内の新婚旅行のメッカは徐々に斜陽を仰ぐようになっていったのです。

 

観光に対する比重が高い県として これは問題なのですが、当然、官民とも手をこまねいて事の成り行きを ただ傍観していた訳ではありません。 風光明媚な景勝や その地に残る逸話などの宣伝に加えて、新たな試みにも取り組んできました。

そのような中で宮崎県において1988年策定された「宮崎・日南海岸リゾート構想」に基づき発動されたのが「シーガイア」計画であり、総工費 2000億円という莫大な予算を投じて進められた一大プロジェクトは1994年結実し、その全貌の公開に至りました。

『 宮崎シーガイア 』は ホテルやゴルフコースを含んだ総合リゾート施設ですが、先行して落成され 注目を集めた世界最大級の全天候型屋内プール「オーシャンドーム」の方がシーガイアの顔として周知されていたかもしれませんね。

巨大なドームルーフが開閉する室内にはトロピカルイメージな海岸が再現されて話題を呼び、同時期に開園していた福岡県の「スペースワールド」や長崎県の「ハウステンボス」などとともに九州リゾート施設の雄となり、2000年7月には第26回サミット外相会議の開催地ともなりました。

 

しかし「宮崎シーガイア」は当初見込んでいた利用客を獲得出来ず、開園以降一度も黒字を出せぬまま7年目の2001年、3200億円の負債を抱えたまま会社更生法の適用を申請するに至ります。 そして 経営の最も負担となっていたのがシーガイアの象徴とも言える「オーシャンドーム」であったことは正に運命の皮肉といったところでしょうか・・。

総工費に過剰な資金をかけ過ぎたこと、オーシャンドームの運営計画が甘かったこと、バブル崩壊後の余波や 利用客の指向性多角化を読み切れなかったことなど、その原因は様々に語られますが、 「シーガイア」のみならず上述の「スペースワールド」や「ハウステンボス」そして全国各地のアミューズメント施設が、時代の大きな渦の中に巻き込まれていった様を考えれば、決して「シーガイア」だけの問題ではなかったと言えるでしょう。

その後「宮崎シーガイア」は経営基盤を一新し、再建に向けての道を歩み始めます。
会社(第三セクター式)破綻から6年、開園から14年目にして初の営業利益を出すに至りましたが、この年は「オーシャンドーム」の廃止・解体を決めた年でもありました。

『 フェニックス・シーガイア・リゾート 』
現在 シーガイアはこのように名称も刷新して新時代に即した営業を展開しています。
近年では従来傾いていた低価格路線を見直し、プレミアムニーズやインバウンドを中心に見据えた高価値付加による高収益化を基本にしているようで、2015年には総工費100億円を投じて施設の大規模改修を行い翌年リニューアルオープンを果たしており、かつてのような状態は脱し経営も落ち着きつつあるようです。

「オーシャンドーム」の跡地にはオリンピック開催に関連して「ナショナルトレーニングセンター」の誘致が謳われていましたが、現時点、未確定のようです。

 

国内人口の減少、少子高齢化、消費志向や価値観の多角化など、こうした傾向は今後も続くと思われ そのマイナス要因が働く地方行政や企業運営の未来は益々 不透明感を強めてゆくのでしょうか。

時代の流れに合わせながらの舵取りは文字や言葉で表すよりも 遥かに難しいものなのでしょう。

少々無理やりなこじつけに思われるかもしれませんが、国や地方の大規模な行政運営も、結婚を基点とした個人の人生設計や営みも ある意味同じようなところが有るのかもしれません。

”石橋を叩いて渡る” かのような堅実な考え方は本質的に必要ですが、それだけに終始してしまっては新しい試みを導入する機会は減少してしまうでしょうし、時代の流れに追いつけなくなってしまうでしょう。

しかし、行政でも人生でも大きな計画(プロジェクト)の時には、得てして希望的観測が先に立ってしまいがちであることも事実です。 夢を抱くことはとても大事であり夢なくして未来も人生も成り立ちませんが、そこには必ずリスクも付随します。

「想定外の状況であった・・」で済ませられるなら事は簡単ですが、多くの場合その跡には無視できない損失を被っているものです。

 

大事なことは当初の想定を外れた事態になっても、それを乗り越えて頑張れる ”本質” を持つことではないでしょうか。

”本質” 自治体であれ個人であれ、”誰のために” ”何を求めて” ”どのように進めてゆくのか(生きてゆくのか)”

一時の高揚や気分、流行、ましてや周囲の甘言に流されず、打算を退け自らの判断と責任そして覚悟をもって決めた ”本質の道” は 想定外の出来事を乗り越えてゆくための大きな力となるでしょう。

大規模な統計報告や AIなどを利用した最新のアルゴリズムによる解析結果など、現代では様々なデータをプロジェクトの判断に用います。 合理的な現代社会においてそれは極めて有効な手段ではありますが 同時に万能で無いことも確かなのです。

(これだけ莫大なデータと処理能力を持ち、なおかつ過去に何度も流行病の経験を持ちながら、今年、世界がこれほどコロナウイルスに席巻されると誰が予測し得たでしょうか)

人が生きる世界において決定者は人そのものなのであり、そこにはいつも希望と挫折、そして それを乗り越える信念と努力が必要だと思うのです。

 

 

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