雄叫ぶ牛鬼 伊予国の数奇で勇壮なふたつの祭事 - 愛媛県

牛鬼(ぎゅうき / うしおに) 漫画家水木しげるさんの「ゲゲゲの鬼太郎」にも登場した異形の鬼、その性格は獰猛・残忍、牛の頭に蜘蛛の身体という奇怪な姿で毒を吐き人を蹂躙する恐ろしい悪鬼とされています。

その伝承は主に西日本の様々な土地に残っており、その多くが人を襲い食い殺してしまうなど悲壮な展開であることがほとんど、その上、退治に至った話はあるものの死して尚 祟りを成した、復活した、7日7晩血を流し続けたなど その不死身とも思える強靭な生命力には一介の魔物の枠を越えたものがあるように感じられますね。

牛鬼には”牛” であり”巨躯” であるにも関わらず、不思議と川や海に関連して登場することも少なくなく、今日ご紹介する愛媛県宇和島地方にも川を起点として牛鬼が出没、人畜に害を及ぼした挙げ句退治され、沈み 血に染まる川を「牛鬼淵」と呼んだ話が残っています。

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ところが、この宇和島には恐るべき妖怪でもあるはずの牛鬼を前面に押し立てて開かれる祭りが存在します。 「和霊神社のうわじま牛鬼まつり」が旧暦 夏越の祓の頃に和霊大祭とともに行われ、夏を挟んで実りの秋 豊穣感謝の「宇和津彦神社の秋季大祭」にも巨大な牛鬼の造型が町を練り歩きます。

 


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「和霊神社のうわじま牛鬼まつり」はその名も宇和島市和霊町にある「和霊神社」で例年7月下旬に行われる”和霊大祭” に合わせて行われるもので大祭の前日に行われる”うわじまガイヤカーニバル”、大祭と並んで行われ牛鬼が町を行くパレードなど勇壮華麗な祭りが3日間に渡って繰り広げられます。

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「和霊神社」は 承応2年(1653年)の創建、仙台藩伊達家の分家 伊達秀宗統治の頃、荒れ果てていた領地の立て直しに大きな功を奏しながらも凶刃に伏した賢臣 山家清兵衛公頼(やんべ せいべい きみより)公を祭神とした神社で、公の事績は当時の領民からも讃えられていたと言われ、和霊大祭はその御霊の神幸祭であるとも言われています。

 

 


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「宇和津彦神社の秋季大祭」は例年10月29日に行われる秋祭りで、壮麗な牛鬼の出し物とともに獅子舞、巫女の舞、そして八つ鹿踊りなどが披露されます。上記の宇和島藩創立・仙台伊達藩の長男 伊達秀宗 の移封(着任)にともない仙台の風土流入の影響でこの八つ鹿踊りも始められたと伝えられています。

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「宇和津彦神社」は和霊神社より須賀川を挟んで南方に2km足らず、宇和島市大超寺奥に立する宮で、延暦11年(792年)創建ともされる古社で宇和の地歴代の国守から崇敬厚い宇和一宮でもあります。宇和の大明神である宇和津彦神、農耕の大明神でもある味鋤高彦根神(アジスキタカヒコネ)、そして大己貴命を祭神としています。

 

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どちらの祭りでも登場する”牛鬼”、その概要は全長5~6m、全高4~5mという巨大なもので、その巨躯を震わせながら街路を練り歩き商店街、交差点各所で2頭3頭の牛鬼が絡む様は圧巻の一言、1頭あたり ぐるりを約30~40人の若衆が担ぎ、また牛鬼の頭部を動かすための人が1名腹部に入って操作しています。
獅子舞のように1~3名で動かし舞わせる俊敏な動きではないものの、時に怒涛と言う言葉さえ思い起こされる迫力ある様は正に”牛鬼” の名に恥じないものでしょう。


[ 動画 YouTube うわじま祭り親牛鬼パレード / tsubakimoto117 様 ]

 

しかし、何故、人畜に害成す牛鬼が祭りのメインスターとして取り入れられたのでしょう。

宇和島に残る伝承では、豊臣秀吉 治世、文禄の役において加藤清正が朝鮮の晋州城を攻める時に作らせた亀甲車(現代で言うところの装甲車)を用いて敵城を攻撃、陥落に導いたそうです。 この時の亀甲車の出で立ちが堅牢な木で箱型の側を作りまわりを牛の革で包んだ上、先端部に牛の生首を掲げていたそうで、清正公の武功とともにこの勇壮かつ巧妙な亀甲車の話が、上述 伊達藩統治前の領主、藤堂高虎によって伝えられたとされています。

余談になりますが、加藤清正公 は逸話の多いお方で、他にも「虎も人もお互い迷惑-いそし社の藪の虎 – 兵庫県」というお話を書かせて頂きました。ユニークな気性の方だったのですかね・・

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ともあれ、この亀甲車が祭りで登場する牛鬼のベースとなっているとされています。

が・・ あくまで個人的な感想で恐縮ですが、どうも それだけではないように感じるのです。 一説ですが牛鬼には”椿の根” がその正体であるという話があります。

牛鬼と椿、一見何の関係も無いように思われますが ”椿の花” は海岸に流れ着き、その地で根付き美しいだけでなく油も取れ時に薬用ともなる椿は神霊の宿る植物とされてきました。
はじめの方で書きましたように牛鬼も不思議と水と関連して語られる事が多く、中には海から上がってきた話も散見されるように、要するに牛鬼には悪鬼としての側面とともに、神族としての一面も垣間見えるのです。

合わせて、その出で立ちと凶暴な性格から考えると私にはどうしても”牛頭天王” の面影が見えてしまいます。 全国で見られる”牛頭 / 祇園信仰” の影響があるように思えるのです。
和霊神社 と 宇和津彦神社 の間に横たわる川の名が「須賀川」というのもそれらしさを感じますよね・・。

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「和霊神社のうわじま牛鬼まつり」は今年は既に終わってしまいましたが、「宇和津彦神社の秋季大祭」の方は来る10月29日(火)に開催予定です。機会がある方は是非 ご覧になっては如何でしょうか?

 

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「和霊神社」

〒798-0012 愛媛県宇和島市和霊町1451

 

「宇和津彦神社」

〒798-0044 愛媛県宇和島市野川新13 TEL 0895-22-1276

「宇和津彦神社の秋季大祭」

2019年10月28日(月)~2019年10月29日(火) ※28日は神事のみ

 

 

 

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2 comments to “雄叫ぶ牛鬼 伊予国の数奇で勇壮なふたつの祭事 - 愛媛県”
  1. 突然すみません!牛鬼祭りの研究をしている高校生ですが、本記事をレポートの参考にさせてもらえませんでしょうか

    • 匿名希望さん、こんにちは、 管理人のROCKZOUです。

      わざわざのご連絡有難うございます。
      また、お返事が遅れましてすみません。

      当記事をご利用いただくことに問題はございません。頑張ってレポートを仕上げてくださいね(^^)。

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