金のなる木 そして悠久の桜(前) – 佐渡ヶ島

皐月(五月)も半ば、季節は花の盛りとはいえ 桜に関しては北海道の一部を除いて最早 過日のものとなってしまいました。
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意外なことに”国花” と定められている訳ではない桜ですが、やはり日本人の心に最も広く馴染み愛されている花ゆえか各地に伝承とともに残されている桜も数多く、ここ新潟県佐渡市小木にも「海潮寺の御所桜」と呼ばれる二株の桜が毎年その花を咲かせます。

.鎌倉時代、承久の乱に敗れ佐渡へ配流、この地でその生涯を終えられた順徳天皇の御手植えとされ、民謡として有名な”佐渡おけさ” の基になったともいわれる”小木おけさ” の一節にも謳われ今に伝えられています。

 

.さて、今日はこの順徳天皇と御所桜にまつわる・・と、いきたいところですが、両者にまつわっていそうでまつわっていない・・でもどこか関係ありそうな、味のある佐渡の民話を一遍 ご紹介しましょう。

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さても今は昔
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佐渡の小木の浜に一対の老夫婦が住んでおった
老夫婦には子に恵まれず 跡を継ぐ者も居らなんだが慎ましやかに仲良う暮らしておった

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ある日 婆さが わかめを取りに浜に出てみると白波の向こうから一槽の丸太舟がユラリユラリとこちらに向かって打ち寄せられて来るではないか
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はて、舟人はどうした ここいらでは見かけん舟じゃがと思いながら やがて浜に打ち上げられた舟を恐る々々覗いて驚いた
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風雨に晒されたか 色は褪せ そこかしこに破れはあるものの 品の良い着物をまとった姫が一人 血の気の失せた顔で息も絶え絶えに突っ伏しておる

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こりゃ大変じゃと爺さを呼び 二人して姫を家に運んだんだそうな
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一時はどうなることかと思われた姫の身体じゃったが 懸命な介抱の甲斐あって 少しづつ その顔にも血色が戻り やがて気を取り戻すことが出来た
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元気になると 自分を助けてくれた老夫婦に深々と頭を垂れ 感謝を述べた姫じゃったが 自らの身上についてはあまり話したがらぬ様子
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わかるのは もともと都人であったこと そして今は帰る所も行く先も無いということ
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なれば ここに居ればよい お前さま さえよければ いつまでもここに住むとよい と言う老夫婦の言葉にまた涙ながらに感謝する姫じゃった

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子の居らぬ家に新しい家族が増え老夫婦も喜んでおった
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ところが 月日が経つ内にまた驚くことが知れた
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姫の腹が膨らんできたのじゃ
姫は都を下る時に既に身籠っておったのじゃった
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月満ちて姫は玉のような男子を生んだ
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老夫婦はこれをまた ことのほか喜び 姫とともに手塩にかけて育てたそうな

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おかげで月日とともに子は元気でたくましく育っていったのじゃが
それが 五つ六つにもなった頃か 遊びに出てもふさぎ込んで家に帰ってくることが増えた
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聞いてみると村の子供たちから 事ある毎に ててなし子 ててなし子と馬鹿にされるのだそうな
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悔し涙に暮れる我が子を抱きしめながら 姫は遠い日々のことを思い出し共に泣いた

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遠い日、姫は 都の君主の側室として仕える十二后と呼ばれた后の一人であった
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気が優しく器量も良かったので君主から とりわけ寵愛を受け 何不自由ない日々を送っておった


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しかし これが他の后の妬みを誘った
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妬みに取り憑かれた他の后は ある大事な宴の日 姫の座るご座の下に茅(カヤ)の実を忍ばせた
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宴が始まり それとは知らずそのご座に座った姫
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途端にピチピチプチプチと妙な音が鳴り響いた
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「何たる事! このような席で放屁するなど もっての外!」
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大事な宴の幸先に泥を塗られた君主は激怒した
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他の后どもは目を逸らせ扇で顔を隠しながらクスクスと冷たく笑うばかり・・
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かくして 姫はこの事の咎を受け流罪の身となったのであった

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昔のことなど語るまい 固く心に決めていた姫であったが たった一人の我が子が不憫でならない
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子の背丈も伸び力も付いてきたある日 姫はついにこの事を我が子に語って聞かせた
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お前はててなし子などではない お前のお父さまは遠い都に居られる君主さまです・・
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お前の中には由緒ある血が流れているのですよ・・
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遠い日から今日に続く母と自らの生い立ちを聞かされた子は 身じろぎもせず黙ったまま この話を聞いておったが
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やがて母が語り終えると その場にすっくと立ち上がりこう言った
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『 ならば母さ 俺は都へ行く 俺を都へ行かせてくれ! 』

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不遇な日常から一転 仰天の身上を聞かされ たじろぐかと思いきや意外な言葉を発した我が子
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思い悩んだ末に事の次第を打ち明けた母の身上はいかなるものであったでしょう・・
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やはり打ち明けるべきではなかったか・・
それともたくましく育ったことを喜ぶべきか・・
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老夫婦 母の想いを一身に受けながらも子の旅立ちの時はやってきます。

 

 

 

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