「獺」さて何と読みますか?「獺」のお話し − 富山県

お正月の3日 香川県の記事で’狸’ にまつわるお話をお届けしましたが、今回は「獺」のお話です。 「獺」普段使うことの無い文字なので「?」の方もおられるかもしれませんが「かわうそ」と読みます。漢字に強い方ならまだまだ初級レベルですかね・・

さて、その獺ですが 日本の民間伝承では狐や狸同様 人を化かすものとして伝えられています。狐狸に比べ昔ばなしへの登場率?が少ないため それほど有名とは言えませんが、北海道から九州に至るまで津々にその話しを留めています。

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さても今は昔、越中(富山県) 立山の中村に堀内与次右衛門という者がおったそうな
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立派な名のりを持っておることからも判るように 元はお城に仕えるそれもたいそう重いお役目の侍であったらしいが、今は髷も変え 手に持つものも刀からクワに変え日々、朴訥に一介の百姓として暮らしておった
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与次右衛門のところには彦兵衛という名の下男がひとりおり 畑の作付けから馬の世話、主人の身の回りの整えまで黙々と働いておったんだと
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ある日 仕事もようやく区切りを迎え陽も傾きかけた頃、村のはずれを流れる小川に足を浸しながら彦兵衛は馬の背を洗っておった
西の山に近づいてゆくお天道さんを見送りながらゴシゴシ、ゴシゴシ・・
一日の汚れと疲れを落とすようにゴシゴシ、ゴシゴシ・・
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すると その時、畑の方から与次右衛門の呼ぶ声がする
「おぅい! 彦兵衛ぇ ちょっと手伝おてくれぇ・・」
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「あぃ!只今ぁ!」 彦兵衛は馬をそのままに主人のいる畑へと向かって行った

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小半時もたっただろうか、
用も終えて馬のところへ戻った彦兵衛は腰も抜かさんばかりに驚いた
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何と 馬の尻から血がだらだらと流れ出し足下に滴り落ちているではないか
馬は息も絶え絶え 今にもへたりこみそうになっている
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(しまった! 獺の仕業だ!)
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思わず 近くにあった薪ざっぽうを拾い上げると 彦兵衛は辺りの川面を所かまわず叩きまわした
すると何処を叩いたときか「ゲッ!」と踏み潰されたような声がしたかと思うと一匹の獺がぐったり浮かんできおったわ
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「こやつめ! 主人の馬に手を出しおって、撃ち殺してくれるけぇ覚悟せぇ!」
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とどめの一撃を打ち据えようと薪を振り上げた時、ふいに後で声がした
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「彦兵衛! まぁ待ち・・」
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振り向くと主人の与次右衛門が立っている
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「まぁ待ち・・獺を撃ち殺したところで馬の怪我が安らぐわけでもなし・・
許して逃してあげなさい・・」
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腹に据えかねる思いであったが 主人がそう言うのでは仕方がない
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「旦那さまがそう仰るのであれば・・・」
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彦兵衛はそのまま獺を逃してやったそうな・・

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その晩の事、眠りについた与次右衛門の夢枕に淡い光に包まれた一人の翁が立った
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「この日は我が下々の獺が 汝の持ち馬に迷惑をかけた」
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「しかるに汝はこれを咎めず獺の命を救うてくれた・・礼をしたい」
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「霊薬の妙法を伝える 汝と多くの民のために役立てられよ・・・」


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目をさました与次右衛門は翁の有り様から これは神農の顕現に違いないと思い、早速に彦兵衛を連れて宮に参ったそうな
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そして、夢で告げられた妙法を頼りに野山にその材料を求め歩き、ついには万病に効く霊薬「養立湯」を作り上げ、その薬は多くの病に苦しむ人々を助けたと言われておる
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富山、そして薬、とくればいわゆる「富山の薬売り」を思い出します
江戸時代初期、第2代藩主 前田正甫による藩財政増強のために 和漢薬の製造と広域販売が奨励されたことが その始まりとされており、現代に至っても富山県には伝統的に製薬会社が多いことで知られていますね。
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今日のお話しの真偽はともかく、堀内与次右衛門 は安土桃山時代後半に実在の方で、その子孫が「養立湯」を作られた というお話しもありますので、こういった経緯が後の製薬王国 勃興の礎になったのかも と想像を膨らますと楽しいですね。
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ところで、お話しに登場した「獺」を見ているとまるで「河童」のようなキャラクターです。 実際、地方によっては「かわうそ河童」などと言うくらいで、昔は想像上の存在であった河童と実在の獺との認識が結構 曖昧で混濁していたようです。
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「貉(むじな)」という言葉も狸であったり穴熊であったり、時にはイタチや狐であったりと、その地域地域でかなりバラバラであったようで、教育が行き届き  調べたい事が瞬時に検索出来る現代からすれば、誠にスローライフな世の中であったことが伺えますね。
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最後に、今回「獺」について調べていたところ「獺」は「イタチ」の親戚のようなもの、そして水族館で人気の高い「ラッコ」も同様 イタチ科、海棲に適した「獺」のようなものと知りました。
言われてみれば「あ〜・・ 確かにそう言えば・・」と今更ながらに思った次第です。(汗

 

 

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