愛着と崇敬の狸 狸王国 太三郎の伝承 - 香川県

狸 と言えば古来キツネと並んで人を化かすもの
頭の上に葉っぱを一枚乗せてクルンと宙返りを打てば美女にもお化けにも变化自在・・
昔ばなしでは定番スターの一角であり、またイタズラをしながらもクールな印象のキツネに比べて三枚目と言うか 愛嬌のある役回りであることは周知のとおりですね。

この狸が活躍する有名所と言えばやはり 四国をおいて他にはないでしょう。
伊予国(愛媛県)に君臨し松山藩お家騒動にも関わったとされる「隠神刑部」
同じく伊予国は大気味神社に住まいいたずら好きで知られた「伊予喜左衛門狸」
義理人情に厚くその生命尽きるまで信義を貫き通した侠客「小松島金鳥」
かの鑑真和上や空海上人に触発され屋島にタヌキの大学を開いた「屋島太三郎」
いずれも後世に名を残し今も尚 各地域で信仰厚い狸のオールスターズですね。

 

 

その中から今日は讃岐国(香川県)屋島を本拠とし、現在では四国霊場第84番札所 屋島寺に氏神として祀られている「太三郎狸」別名「蓑山大明神」のお話しです。

古の伝承において時系列的に言えば「太三郎狸」が最初に登場するのは、日本に授戒の制度や数々の叡智をもたらし後に律宗の開祖となった鑑真和上の来日譚においてですので、その頃は天平の時代、実に1200年以上も昔の話しとなります。
懇請され奈良の朝廷へと赴く鑑真和上が屋島の沖合を通りかかった折、屋島の峰にただならぬ霊感を感じ その山頂に堂を建てることを決意したものの、盲目のため登山に難儀されていたそうです。
その時、蓑笠をかぶった老人の姿で和上の手を取り案内したのが「太三郎狸」でした。
おかげで山頂には無事お堂が建てられ 後々多くの僧がここに通ったとされています。
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鑑真和上に続くかのように屋島を訪れた弘法大師 空海 の時も道案内をなし、その功績と殊勝さを空海に認められ「蓑山大明神」として屋島寺の守護を任され、その任は現在に至るまで続き地元の人々から篤い崇敬を集めています。
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また、これら高僧たちとのふれあいによって向学の大切さを痛感した「太三郎狸」は屋島に狸のための大学寮を作り全国から集まった狸たちに勉学を施していたそうです。

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一方、時は過ぎ平安も末期、鳴門の渦のごとく世は源平の合戦へと歩を勧めていた頃、どうしたことか「太三郎狸」は矢に当たり大きな傷を負ってしまいます。
瀕死の重傷を負った「太三郎狸」を救い手当を施したのが平清盛の嫡男、平重盛(たいらのしげもり)であったそうで、このことに恩義を感じた「太三郎狸」は平家の守護を誓ったと言われますが、さすがの「太三郎狸」の霊力も時代のうねりには抗えなかったのか その後平家一族が滅亡への道を辿ってしまうことは皆様の知るところですね・・

平家の繁栄はことごとく過去のものとなってしまいましたが、栄華を誇った一族の屋島における戦いぶりを後世に伝えようと思ったのでしょうか、屋島寺の住職が交代するたびに「太三郎狸」は幻術を使いその様子を見事に再現してみせたと言われ、その技量、霊力は極めて高くやがて四国の狸の総大将と呼ばれるまでになりました。

 

そして時代は下がり、江戸の頃になると冒頭でご紹介した「小松島金鳥」に関わる「阿波狸合戦」が勃発してしまいます。「金鳥」の能力を認めながらも自分の勢力内に留めておきたい`六右衛門狸’ と、自分を救ってくれた恩人への義理人情を通すため敵味方となり、ついには一大決戦を繰り広げ ともに散った悲しいお話しですが、後年、二人それぞれの二代目(息子たち)が再び因縁争いを起こそうとした時、その間に割って入り いさかいを治めたのが「太三郎狸」であったとの話も残っています。

 

さらにさらに、明治の時代ともなると日露戦争において大陸まで渡り日本軍の助力を成したというのですから、これはもう一霊動物の伝承としてもスケールが桁外れですね。
さすが四国三名狸の一匹であり、また日本三大狸の一角を成すスーパースターと言えるでしょう。

 

 

本日は「屋島太三郎」のお話しをご紹介しましたが、四国には「隠神刑部」「小松島金鳥」ともに今日にまで残る壮大な伝承が有り、また日本三大狸の 新潟は「佐渡団三郎狸」そして四国のお隣、淡路島の「芝右衛門狸」などにも多くの逸話が残っています。
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そしてそれらの狸たちの殆どが人々の信仰の対象となり、神社などに祀られていることも注目に値する事ではないでしょうか。
稲荷神の使いとして元々神性の認められていたキツネと異なり、狸の多くはその行動や逸話から人々の感心を誘いやがては明神へと上り詰めます。
それは狸が単に霊力が優れていることに留まらず、人々から好かれる愛嬌を持っているからなのかもしれません。
まだ開発が進む前の時代では、比較的 人里近く生息し人々には身近な生き物でした。
また、狸は生涯 一夫一婦制を貫く生き物だと言われており、そういった習性から夫婦円満、子宝成就、家庭円満のご利益をもたらすものともされています。

キツネと双璧を成しながらも どこか三枚目で愛嬌たっぷりの狸、人を化かし恐れられながらも やはり愛される狸、機会を見てまた狸にまつわるお話しをお届けしたいと思います。

 

最後にオマケで「太三郎狸」にまつわる逸話をもう一つだけ・・
別名「蓑山大明神」とも呼ばれた彼にはもう一つ別の呼び名が有りました。

「屋島の禿狸(ハゲダヌキ)」 禿狸とは何ともはやな呼び名ですが・・・

貧乏でまともに年を越せない夫婦のために一肌脱ごうと思い立った太三郎狸
金の茶道具に化け古道具屋にに売られることで金を工面、夫婦を助けてあげた
ところが売られた先で逃げあぐねている間に火にかけられアッチッチ
ようやく逃げ出すことが出来たものの 頭に残る名誉の負傷の禿跡が・・

やはり 人情派で三枚目ですかね・・・

 

 

* 民間伝承の類は多くの場合、他の逸話が混同していたり錯誤されていたりします。
今日お届けした話にもそのような点があることをご了承の上お楽しみ下さい。

 

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