鳥取県 民話 – 佐治谷のカラス売り

鳥取県東部、現在の佐治町つく谷(さじちょうつくだに)は清らかな谷水が流れる典型的な山間集落ですが、ここはその名のとおり山に挟まれた谷間の村で、かつて佐治 / 佐治谷と呼ばれ大きな人里から離れ慎ましやかな生活を送る里でもありました。
この佐治谷には「佐治谷ばなし」と呼ばれる民話が残っており、その形態は主に笑い話の類型に属しますが そう広くない一箇所の地域に昔ながらの形で多数の話しが残っているのは珍しく鳥取市の`無形民俗文化財’ ともなっています。

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ある日 佐治谷に住むひとりの男が一計を案じた。

山で獲ってきた10羽ほどのカラスを叺(かます・藁を編んで作った袋)に詰め三尺棒の後ろへ、そして別に獲ってきた見事ななりのキジを一羽 棒の前に吊るすと それを肩に掲げ村を出た。川を渡り、峠を越え、お天道さんも登りきった頃 大きな人里へと着くと、

「カラスはいらんかぁ、カラスはいらんかぁ」
「立派なカラス、安うしとくけぇ いらんかぁ」

と、大きな声で売り歩いた。 棒の前では見事なキジがぶらぶら揺れておる。

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それを見ていた里の若い衆

「おい、見てみぃ、佐治谷の田舎もんがキジをカラスと間違うて売りにきとるぞ」
「あいつら 田舎もんちぅてもキジとカラスの見分けもつかんのかのぉ」

と、ひそひそ小馬鹿にしだし、挙げ句

( カラスの値でキジを買うちゃったら大儲けになるわ )とばかり

「おい、カラスは何羽くらいあるんや? 安うなるんやったら買うちゃってもええぞ」
と、カラス売りの男に声をかけた。

カラス売りの男

「今日は10羽ばかり持ってきとる、ただ、このカラスは見事なカラスなもんで普通のカラスよりちいとばかり高うなるが まとめて買うてくれるんならまけとくわ」

聞いてみると使い道もないカラスにすれば ふざけとんのかちゅうような値段だが、キジとして考えれば安いことこの上ない。

「よっしゃ!買うたるわ!」とばかりすぐさま金策に走り金を集めてきた。
集まった金を男に渡し、

「こえでええな? ほなカラスを全部もらおうか!」とニコニコ顔で言うと

「ほい、おおきに、ほな持って行ってえ」とこちらもニコニコ顔で棒の後ろの叺(袋)をほどき中から10羽のカラスを取り出した。

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びっくりしたのは里の若い衆

「おい! こ、こりゃカラスでねぇか!」

カラス売りの男、すました顔のまま

「あ? そうだカラスだ? 俺ゃカラスいらんかと言うて売っとったし、お前ぇらはカラス売れと言うたろうが?」

一杯食わしてやろうと考えながら逆に食わされたと気づいた里の衆だったが、それでも堪らず・・

「じゃ、じゃぁ その棒の先にあるものは何だ!?」 と詰め寄ると

「ん? これか? これはキジ ちゅう鳥だ、何だ?里のもんはキジも知らんのか?」

と、笑いながら帰って行ったと・・・・

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「佐治谷ばなし」は主に閑静な村と人里の文化の差からくるこっけいな出来事を題材としていることが多く、村に住む世間知らずな夫が漁師町出身の嫁の家を訪問して起こす珍事を語った「かにのふんどし」や 村の衆がお伊勢参りで初めてみた`鮎’をサバと間違う「刺し鯖」など[物知らず]をモチーフにした話が知られますが、今日の「佐治谷のカラス売り」はそれを逆手にとったような逆バージョンと言えるかも知れませんね・・

 

 

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