山口県 民話 – 導かれし蒼き湧水 別府弁天池


かつては長門国(ながとのくに)とも呼ばれた地にあり、今は山口県中央部の地、美祢市(みねし)、国内最大規模の鍾乳洞窟「秋芳洞」又、カルスト台地「秋吉台」の人気は高く観光客も絶えることがありません。その秋吉の地に住んでいたひとりの長者さんのお話しです
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さても今は昔、秋吉の麓の村に小さく貧しい村があったそうな

ここら辺は岩地が多く土も痩せているため稲を植えても中々育たず、又、水にも不自由することも多かったため村はいつの日も貧乏な暮らし向きじゃった

この村の長者と呼ばれる者に`イワミ’ という名の人がおったが、長者とはいえ さして蓄えもなく小さな蔵にもその年が何とかしのげる食い扶持がある程度じゃった

 

人というものは面白いもので富が増えてくると さらにそれを追い求めるようになるが、貧しい暮らしが普通になると何とかそれでしのごうとする。この長者さんもそんな慎ましい生活を健気にすごしておったが、それにしても この村の貧乏なこと、土地の貧相なことには常々頭を悩ませておった。「あぁ、何とか豊かな実りが得られぬものか・・ 村人が笑って暮らせる日は来ぬものか・・」

 

 

とある晩、虫の音さえ聞こえんようになった頃、長者さんの夢枕にひとりの老人が現れてこう告げられたそうな

「秋吉台のふもとに鎌を振れ 豊かな実り その地に栄えん」

翌朝、目覚めた長者さん、にわかに信じられぬ心持ちではあったが、ふと見ると寝床の脇に見知らぬ鎌を見つけた、あの夢に現れた老人が手にしていたものか・・
常日頃からの悩み、願いが天に通じたかと さっそく村人達を集め夢のお告げを説いた。
秋吉台のふもとも この村とさして相違なく荒れた地で、このお告げを訝しがる者もおったが、このまま何もせず飢えるより良かろうと長者さんを筆頭に村人総出でこのふもとの地を開墾することになった。

 

 

岩の多い地を開墾するのは骨の折れる仕事で皆 苦労が絶えんかったが、やがてそれなりに広い地を開くことができたそうな
とはいうものの、地のりが地のりゆえに水が出ん、水が出んと稲や麦はおろか畑作も出来ん

 

これは今一度、神頼みする他なかろうと二十一日の間、長者、村人共々水乞いの祈りを捧げると二十二日目の晩、長者さんの夢枕にまたしてもあの老人が現れ

「祠を作り 北なる弁財天を求め これを崇めよ 一杖の青竹をもって水の源を求めよ」

喜んだ長者さん、目覚めるとすぐに村人達と開墾地のそばに弁天様の社を建てると、裏山から一本の青竹をとってきては杖として水源を探し始めた

 

 

ところが、中々、水源は見つからない、来る日も来る日も当て所なく探し回ってみたものの小さな湧き所さえ見つからん
ある日、疲れ果てて社の所まで戻ってきてヤレヤレとばかりに座り込み、持っていた青竹を「ヨイショ」と地面に突き立てたその時、刺したはずの青竹がグイと持ち上がった

 

何ぞとあわてる長者さんをよそに青竹はグイグイ持ち上がり、ついには抜けそこには こんこんとして水が湧き出てきたのじゃった

驚くことに その湧き出る水はたった一晩で蒼く大きな池となったそうじゃ

おかげで開いたふもとの地は水に事欠かず、いつしか土地も肥え豊かな実りを結ぶようになった、長者さん共々村人達に笑って暮らせる日々がもたらされたそうな・・・

 

 

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この池は説話の経緯から「別府弁天池」と呼ばれ現在も健在で国の名水百選にも選出されています。驚くほどの青さで、いわゆるコバルトブルーといったところでしょうか
神秘的な色合いと湧水特有の透明感で近年、観光客にも人気のスポットとなっています。

 

村の長者というと昔ばなしの中においては欲張りであったり、傲慢であったりと悪者キャラとされることが少なくないのですが、こちらの長者さんは村人達のために粉骨砕身された方のようで正に長者の鑑といったところでしょうかね。

ではまた次回・・・

 

 

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