京都府 民話 – 牛飼いの五郎兵衛はん


さてさてころりん  京は丹後の地に伝わるお話し

牛飼いの五郎兵衛はん ある日、牛の背に米俵をくくり付けると峠を越えて海に近い岩滝の町まで売りに行かはったそうな。
朝の早うから出かけたもんやから お天道さんが傾きかけた頃には町で米も売れ つれづれの用事も済んでまた森本の里へ帰る事となった。

せっかく町まで来たのだからと嫁はんに何か買うて帰ってやろうと なんぼか考えた末、久しぶりに油揚げも美味かろう、婆さんにもたまには良かろうと たんと買い込み来た時のようにまた牛の背にくくり付けると帰り道をポクポク帰っていった。

ポクポク、ポクポク、右坂を登り峠を越えにゃぁならん。お天道さんはまた少し傾いたようや。この調子ならなんとかお天道さんが今日のお隠れになるまでに峠を越せるやろう、そんなことを思いながら坂の折り返しを曲がった時やった、半町ほど先を行く人を見やったそうな。
まだ年若い娘はんのようやが 何かどうにも青息吐息、苦しそうに坂を登っとる、見れば足をくじきでもしたのかヒョコタン、ヒョコタンと辛そうな足運び、五郎兵衛はんと牛は じきに追いついてしもうた。

「どないしたんや? 足ぃ くじいたんか?」
五郎兵衛はん、娘はんに声かけてやったそうな

「へぇ、登りの口でつまずいてしもうて‥ 今日中に叔母の家まで行かなならんのに‥」
悲しそうな声で返す娘はんに

「ほたら、わしの牛に乗って行くか? その足じゃ峠は越されへんやろ」
優しい五郎兵衛はん、娘はんを牛の背に担いで乗せてあげたそうな
娘はん、涙を浮かべながら何度もお礼を言うておった、ほんま、世は助け合い、有り難い話しじゃな‥

 

‥が、 難儀な事もあるもんじゃて、この娘はん 涙を拭うように伏せた たもとの陰でニッタリ笑っておったそうじゃ。 なんや言うてこれ娘に化けたキツネやった。
牛の背から流れる油揚げの匂いにつられて峠の草むらから出てきおった、ここら辺でちょいちょい悪さをはたらく困ったキツネやったそうな。

「しめしめ、これで大好物にありつけるわい。頂いた後は隙をみて逃げ出せば‥」
五郎兵衛はんに悟られんよう笑いをかみころしておったと‥


ところがここでキツネにとって思わぬことを五郎兵衛はんが口にしはった
「足が使えなんだら体を支えられん、この先 急な坂も有る」
「牛の背から転げ落ちんように縄で縛っといてやろう」
ほんまに優しい五郎兵衛はん、荒縄で娘はんを牛の背にきっちりくくってしまったと

これには驚いたキツネやったが 今さらそれは要らんとも言えず、さりとて油揚げをさらって逃げるわけにもいかず‥ まさに どうするべぇかと言った有り様

しかし、そんなキツネの焦りなぞ気がつくはずもない五郎兵衛はん、ぐるぐる巻きの娘を乗せた牛をひいてどんどんどんどん峠を越えて行く‥

「あの‥ 親方、坂も下りになったので もう降ろしてもろても‥」
「いやいや、里まではまだ たんとあるに」

「あの‥ 親方、里も見えてきたので もう降ろしてもろても‥」
「いやいや、気にせんと里まで乗っといたらええ」

もう人里は目と鼻の先、このままじゃ下手すると村人総出でなぶられてしまう

「もう、堪忍! 降ろしてぇ〜!」

縄の間から太っとい尾を出して、ついにキツネはその正体を晒してしもうた。

突然の事に何事かと振り向いた五郎兵衛はんやったが、
「ありゃ! 何やと思うたら わりゃ悪さばかりしとるキツネやねえか!」
「おのりゃ 人の親切までも逆手にとるとは許せん! 打ち殺してやるさけ覚悟せえ!」

牛追い棒を振り上げた五郎兵衛はんの前に 震え上がったキツネは土下座をして謝った。
いや、しばられていたので土下座は出来んかったが心の中で土下座して謝った。

「もう決して悪さはせんから! 二度とせんから堪忍しておくんなさい」

泣いて頼む その情けない姿に憐れを感じたか五郎兵衛はん、キツネの縄をほどいて逃してやったそうな、やっぱりまぁ根の優しい人なんやな‥

その後、辺り一帯で悪さするキツネの話しは聞かんようになったと

 

数年後、五郎兵衛はんがお伊勢参りに旅しはった時や、桑名の浜を見下ろす山の中で一服しておった時じゃ、道先に一匹のキツネがふっと出て来てこれだけ言うたそうな

「五郎兵衛はん、あん時は堪忍してくれておおきに、今ではここに住もうとる、桑名の山に住もうとる」

春の日の浜風がかおる昼下がりの事やったと

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