奈良県 民話 – 飛倉(とびくら)後編

はてさて、あてが外れて恥をかきヤキモキしながらその日を過ごした長者じゃったが・・

ところがどうじゃ、その翌日になるとその空飛ぶお椀がまた長者の前へとふわふわ舞い降りてきたではないか。
「二度と来るなと言ったはずじゃ!この欲張り坊主が!」
長者は怒り心頭、まわりの者が止めるのも聞かず「そんなに米が欲しけりゃくれてやるわ!」と怒鳴りながら庭に有る米蔵にお椀を放り込み鍵を掛けてしもうた。

しかし、その途端の出来事じゃった、辺りの地面が地響きを立てて揺れ出したのじゃ。
恐れおののいて下働きの者たちが這いつくばる中、長者が見たものはぐらぐらと震えながら地面から浮き上がっていく米蔵じゃった。
「おぃっ!米っ!その中にはワシの米俵が!」
倉の中には騙したも同然で村人から取り立てた米が百俵から溜め込んであったのじゃ。
「米!ワシの米~!」
ゆらゆらと宙を舞い彼方へと流れてゆく米蔵、我を忘れて必死にそれを追う長者、普通なら気も折れて諦めようものを欲のあさましさ、ついにはお坊様の居られる山の中腹まで蔵を追ってやって来なすった。

「や、やいっ!このクソ坊主っ!」
青息吐息の中、気色ばむ長者をよそに出てこられたお坊様、
「これは良い蔵ですな・・ 御仏を安ずるお堂にちょうど良い」
静かに笑っておられる。

その高潔なそして不動の如き様を見た長者、拍子抜けした、いや、すっかり腰が抜けてしまったわ。
「く、蔵は差し上げます、でも米は、ワシの米だけは・・」
いやはや、業というもの深いもの、この期に及んでいまだその執着は衰えず、
「いやいや、拙僧は見ての通りのひとり住まい、このような米は不要じゃて、持って帰られるが宜しかろう」と、
「し、しかし、このような山の中からどうやって屋敷まで持って帰れと・・」
嘆く長者にお坊様
「何、来たように帰れば宜しかろう」
と呟くと蔵の戸が勝手に開き中から先程のお椀がふわふわ、そして何と数々の米俵もふわふわ浮きながら出てきたではないか、
「あぁっ!米!ワシの米~!」
出てきた米俵に思わず取りすがり、長者はそのまま一緒に空に上がってしまったそうな。

「業深きは身を落とされると覚えられよ」と言われるお坊様の言葉を遠くに聞きながら空高く舞い上がった米俵と長者、そしてそれに続く残りの米俵、見た事も無い場所から遥か下に見える田畑を見下ろしながら見晴らしが良いどころか生きた心地もしない。俵にしがみ付きながら身じろぎひとつ出来ずにいた。

しかしながら、しばらくの間ふわふわと飛んでいるとさすがに少し慣れてきたそうで・・
そうすると眼下に広がる田畑が精無く荒れ果てている事に今さらながらに気付いた。
もう夕げの頃と言うのに家々のかまどから煙もたっておらず人の気も無く何と侘しい事よ。

ようようにして米俵とともに屋敷に舞い戻った長者、集まった家人の中でまたふわふわと山に帰って行くお椀を見送りながら
「明日、村人たちを集めてくれ」
それだけ言うとすぐさま深い眠りについたそうじゃ。


その後の村は潤うた。大半の米を長者は村人に分け戻したからじゃ。その後、長者はあこぎな真似をせぬようになったとも言う。村人は祭りを開いた。長者をも招き、皆腹一杯に飯を喰った。そして後に命蓮(みょうれん)上人とも呼ばれる事になるお坊様の功徳に感謝するためじゃったそうな・・・・・ うぃうぃめでたしじゃな

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