山口県 民話 – なくした数珠 花岡白狐伝説


山口県の南西部、下松市の花岡に法静寺というお寺さんが有ります。このお寺さん、境内の奥にお稲荷さんが祀られています。
神仏習合の時代にはお寺さんと神社の同居?のような状態が時折見られましたが、このお稲荷さんには趣き深いお話しが伝わっています。

さても今は昔、法静寺に智順と称される大変徳の高い和尚さんがおられた。貧富正悪を問わず人も獣も愛し、助け、これを導く事から地元の民のみならず、獣、草木に至るまで慕われていたそうな。

 

ある初秋の日、朝早くから和尚さんは近在の町まで法事の用があり出かける事になった。
近在とは言え昔の事、丘を越え、山を越え2本の足でてくてくと半日掛りで歩いて行かなければならない。

ようやく陽も高くなった頃、向かうべき家を訪ね無事法事を済ませられた。
家人に感謝され一息つくと、まだ暑さの残る家路への路をまたてくてくと戻られたそうな。

陽も少しづつ傾きかける中、草木生い茂る白牟ヶ森の山道を一歩一歩進んでおられた時、ふいに辺りが暗くなった
まだ陽が暮れるには早いにと思うさまにザワザワと草の音をかきならしながら生温い風が吹きぬける。
辺り一帯、不穏な空気に包まれながら和尚さんが立ちすくんでいると、暫らくしてそれらは治まりやがて森はもとの明るさとなった。

 

「今のざわめきはいったい何だったのだろう・・?」和尚さんは不思議な感覚に覆われながらも森を抜けやがて寺に戻った。

小僧に帰宅を告げやれやれと一息ついた和尚さんだったが・・「や!?」左手に掛けていたはずの数珠が見当たらない!
たもとや懐の中はもちろん、道中の小荷物の中やあれこれを探してみたがついに見つからない・・・

仏に仕える身として数珠は非常に大切な物、ため息をつき落胆しながらもふと昼間の森のあの不思議な一時を思い出していた・・

 

その夜、中々眠れずにいた和尚さんであったが、遅くになってようやくうとうとしかけた頃、何やら枕元に近づく気配がする・・
胸騒ぎを覚え起き上がってみるとそこには おぼろげな影の様な姿でたたずむ二匹の白ギツネが居た。

 

「私どもは白牟ヶ森のキツネの夫婦でございます。今日、森を通られる和尚さまを見て勝手ながら今宵失礼致しました」
夫と思われるキツネが口を開いた。

「私どもは故有って二匹して黄泉の国へと旅立つ身となってしまいました。しかし、どうにかして残された子供たちを彼の世から見守ってやりとうございます。つきましては、どうか願わくば私どもの亡骸をこのお寺に葬って頂く訳にはまいりませんでしょうか?」

「もし私どもの願いを聞き届けて頂けようものなら、今後、このお寺や村を火事や窃盗からお守り致します」
「そして、その証に今日和尚さまがなくされた数珠をお届け致します・・」

あまりの不思議な出来事に唖然としていた和尚さんであったが、ふと我に帰った。
驚いたことに朝になっている。するとさっきまでの事は夢であったのか・・
しかし、ふと脇を見るとなくしたはずの数珠が置かれてある・・・ するとあれはやはり・・

和尚さんは朝の食事もそこそこに寺男をつれて白牟ヶ森を再び訪れ、あちらこちらを探してみた。すると程なく夕べの話しの通り二匹の白いキツネの亡骸があった。和尚さんはこれを寺まで運び、人間と同じように経を上げ墓に葬ってあげた。

 

するとその後、白ギツネ夫婦の残した言葉のとおり寺や地元の村では火事が起こることなく盗まれ事もなくなったそうな。

そして、その法徳は以後永きに渡りある時にはお代官様の役に立つ事も有った事からお上より「出世福徳正一位稲荷大明神」の神名を授かり立派な社も建てられた。社の名は広く知れ渡るところとなり「花岡の福徳稲荷」として人々に愛され語り継がれるようになって今では秋の「稲穂祭り」には「キツネの嫁入り行列」の祭事も執り行われている。

 

花岡福徳稲荷社 : 山口県下松市末武上戎町1224

花岡福徳稲荷社 : 「きつねの嫁入りWEB」

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